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「それにしても、年齢いってるけどな。」そう言ったのは、ある映画監督だ。今回は大きな撮影現場で、彼は監督助手として仕事をしていた。まだまだ下っ端だったが、どことなく認められて監督のそばにいた。

「もう二十九です。」彼は自虐的に言う。関西に長い間いたので、東京に出てくるのは遅れた。もし友だちが上京しなかったら、彼も一生地元に留まっていたかもしれない。

「三十で始めるのは、ギリだな。」監督は焼酎を飲みながら言う。たしかにほとんどが彼よりも年下で、現場では先輩だった。

「ギリギリセーフすか?」彼が言うと、周囲は苦笑する。

「ギリギリアウトだろ。」などと年下にも言われるが、彼は気にしなかった。そういう図太さが、彼は気に入られた。

「おい中野、来いよ。」そう言われて、彼は監督と一緒に行動する。他の監督助手よりも立場は下なのに、監督といるのでどことなくみんなも彼に敬語を使う。

「中野さん、監督の入りは何時ですか?」製作の女性が聞いてくる。

「十三時には入るって言ってました。」彼は時間を確認する。もう十五分前だった。

「監督に連絡してもらえませんか。届いてない衣装があるそうで。」女性が言うと、彼はうなずいた。そして監督に衣装のことをメールする。するとすぐに返事が返ってきた。その内容は、三十分ほど遅れるということと衣装については、他のもので代用できないかということだ。またどのシーンかを知らせるように、ということで彼は即座にそのことを製作と衣装係りに伝える。そして衣装ナンバーなどを確認して、それを監督に再びメールした。監督が到着するまでに、そのようなやり取りが何度もあった。それで衣装については解決。そして彼は衣装部と製作の女の子にも感謝された。

「仕事やから、一応これでも。」彼はそう答えて笑う。そのようなことが多々あった。もちろん監督から怒られることもいっぱいある。でもそのぶん可愛がられていた。監督自身がそのことをどう思っているかは不明だが、周囲からは嫉妬や陰口なども叩かれた。

「あの人、ほんとコバンザメみたい。」とかいう言葉が、誰かの口を借りて聞こえてくる。直接言う者などいないから「あの人がそう言ってたよ。」などと言ってくるのだ。でもそれが間接的に、伝えた者の気持ちであることも彼には容易に分かった。

「あーほんま嫌やわ。」それでも彼は夜になると、監督に連れられて飲みに行った。そして寿司をご馳走になったりもした。そのことを彼は感謝していたが、やがて監督の元から離れる決断をする。