20210905_2214252


 夢と現実が交錯するのが東京砂漠のシルクロード。もしかしたらそれはインドの道に続いている?いや、はたまたローマの道につながっているかもしれない。できたら黄金色のレンガ道につながっているように、オズの魔法使いにも会えるようにとぼくは願う。でもドロシーというよりは、砂漠で油田か砂金を探すカーボーイのような気分。でもインディアンに殺されるかもしれない。またはバッファローに襲われるかもしれない。いや、そもそもぼくは白人でさえない。立派なアジア人だとアメリカで実感してきた。そして帰国して、自分なんて立派でもなんでもないんだと知った。だから腕前を磨きつつ駆け上がるんだと、富士山麓のダンス住み込みで思い知った。それなのに、ようやく東京に出てそれらが全く通用しないことに愕然とした。ぼくだけじゃなく、あまりにも多くの人が成功への階段を登ろうしている。しかもそのルートが一つとは限らない。富士山頂へのルートなら、ある程度は決まっているもんだ。だけど、成功への道しるべはどこにもない。もしてっぺんが見えたとしても、そこからが大変なのは富士登山と同じ。ぼくはそこから転げ落ちていく。仲間たちに助けを求めるが、彼らだって自分のことで精いっぱいだ。そして下を見ると、そこは谷底で死者の群れが待ちわびている。「あきらめるなら、はやいほうがいい。」彼らはそう言う。「道はそこだけじゃない。」「山もここだけじゃない。」確かに彼らが言うことにも一理ある。だけど結局、自分を守れるのは自分しかいない。霧が立ち込め、誰かがぼくの足を引っ張った。そしてぼくはダンスの道を進むのを止めた。

「ハリオ。」Sさんがぼくを見ている。

「音楽はまだ続けるつもりです。」それに、これからも続けられたらいいなと思っている。ぼくはそう言っていた。

「そっか。」Sさんはニヤリと笑って、ぼくにビールをついでくれる。ぼくはお酒飲めないけど、気持ちだけ受け取っておく。こういう日本的なやり取りが、アメリカに一年間いたことがあるSさんとの間で行われるのには笑ってしまう。

「ありがとうございます。」ぼくはそう言っている。

「なんや、酔ってるんか。」そうSさんが言うが、もちろんそうではない。ぼくの焦点はしっかり未来を見つめている。東京砂漠に負けないように、もう失敗しないように。そして失敗したとしてもしっかりと歩いくために、前をみすえている。