「ハリオ、お前もうダンスやらんのかよ。」そう言ったのはSさんだ。
「うん、ダンスはもういいかなって。」ぼくは口ごもる。
「じゃあ音楽一本か。」Sさんはそう言いながら、鳥のから揚げを一つ平らげた。
「最初からそうしてたらよかった。」ぼくは少しの後悔を、地元の先輩でもあるSさんに対して吉祥寺で表明する。
「そらそうやろ。」Sさんは苦笑している。音楽スタジオ近くの定食屋。Sさんといると、外に吹いている雨風のことを一時的にしろ忘れることができた。ぼくらは地元でもバンドを組んでいた。その中のメンバーKくんが、まず最初に上京したのだ。それからSさんやぼくもすぐに出てくるはずだった。
「Kくんがいたら。」ぼくが独りごとのようにつぶやくと、Sさんの動きが止まる。
「ああ。」と言うシンプルな言葉の端々に、何かがつきまとう。
「ごめん。」思わずぼくは謝ってしまう。
「アホか、お前が謝ってどないすんねん。」Sさんは鼻をすする。
「うん。」ぼくも残りのから揚げを食べる。
「なぁ、音楽はいつまで続けるつもりや?」Sさんはぼくを見ずに言った。
「え?」思わずぼくはSさんを見る。
「食ってくのが大変なことくらい、おれやKのこと見てたらわかるやろ。」Sさんは瓶ビールをコップに注ぐ。
「う、うん。」そのことについては、まだダンスほどは突き詰めて考えてなかった。むしろ音楽があるからダンスを止めようと思えたのだ。友だちのケムなんて、今はダンスに専念している。
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