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 六本木にはビルが立ち並んでいる。首都高が高架の上を走り、オレンジ色のライトが夜を秘かに染め上げる。その下に未開の地が広がっている。いや、未開というには発達しすぎた飲食店や美術館、映画館、キャバクラ、クラブなどが点在している。日本人だけでなく外国人も夜の街を行きかう。タクシーはあたりを迂回し、手をあげる人を捕まえようともくろんでいる。もちろん世界中の都市を見てみれば、もっと高度に進化した町もある。アジアだけ見てみても、上海や香港、シンガポールなどは大都会だ。東京という歴史を持った町が、どこの位置に存在するのか。

パックリと口を広げた闇が巣食っている。それは獰猛な人々の欲望を飼い慣らし、暴走もさせる。孤独を抱えた子供たち、遊び慣れた大人たち、金銭感覚のマヒした強者どもが一夜の夢を食いつぶす。その跡には高層ビルに住むようになった有名人。離婚し、やがて自殺するだろう人々。高い部屋から見下ろしていた人間が、そのまま直滑降するように落ちていく。高みに上ったプライドも野心もずたずたにされ、引きずり回され、闇の中へと捨て去られる。

白いコートを着た女が歩いている。またはスーツ姿の男。都会で働く野心家たちのドリームマッチは、毎日のように開催される。固いカバンには経済を回し、政治を司り人間を支配する武器が常備されている。それを抱えた働き手たちは、契約を取るために深夜まで働いている。しかし彼らは孤独である。唯一の友は、裏道を這うドブネズミとゴキブリたち。または後悔を叫ぶ夜のカラスたち。

 はたして彼らも夢は見るのだろうか?少なくともよい夢を見ることがない。あるのは酔いどれの戯言と、言葉にならない言葉の応酬。自動ドアのように一瞬開くが、すぐに閉じてしまう心。ありったけの勇気で告白するが、あっけなくふられてしまう愚者。悔しさをバネにして再び立ち上がるが、同じ過ちを繰り返す弱音の群れ。賭け事に手を出し、一喜一憂しては落ちぶれる中年男性。エステに通い美白を取り戻そうとするが、次第に衰える肌年には逆らえない中年女性。