
「こんにちは。」二度目に会ったのは、やはりホテルの中華料理屋だった。もちろん一流のお店。
「どうも。」男はすでに着席していた。
「申し訳ないです、予約までしてもらって。」女はそう言い座った。彼女はドレスアップしてきていた。
「いや、全然。ここの中華は旨いんでね。」そういうことを知り尽くした中年男が言うのだから、間違いないだろう。これまでどのくらいの人をこの場所に連れてきたのか。仕事とプライベートで。
「楽しみです。」そう女は答えた。それから、食事をして仕事の打ち合わせもする。少しのお酒が入る。
「よかったらバーで続きはどうですか?」そう男に誘われて、女は腕時計を見た。
「すみません、今日は。」女は口ごもる。息子が家で待っているのだ。
「なるほど。」と男は言った。
しかしそれであきらめるようなら男ではない。彼は三回目のアポをとると、その夜にはバーで飲むことに成功する。そして彼女を口説く。女が子持ちのシングルマザーであることに驚きつつ、彼女の魅力を褒め称える。女は言葉に弱い。しかも一人で気を張っている都会の女。もちろん相手は既婚者だと知っている。だが、久しぶりに惹かれる相手だ。自分のような者も女として見てくれる。彼女はその晩、男と寝た。ホテルは密会の場所として使うにはもってこいだ。最初は高級ホテルで、そしてそのうち普通のラブホテルで会うことになる。少しグレードが落ちた、と女は思ったが「すまない。」と率直に男が言ったので、静かにうなずいた。確かに毎回高級ホテルで密会を重ねるのは、重役とはいえ会社員にはつらいものだろう。
「どうした。」そんなある時、男が女の顔を見て驚いた。
「ごめんなさい。」彼女は包帯をした片目を手で押さえる。
「事故か?」男は女の片目を見る。
「火傷。」そう女は言った。息子が熱湯を被りかけたのを阻止しようとして、自分が犠牲になったのだ。
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