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 でもそれが間違いだった。同級生と妻は密会を重ねていたのだ。それを彼が知ったのは、ずっと後になってからだった。たまたまホテルに入る二人を見かけたのだ。家からは遠い場所だったので、最初彼は二人を見間違えたと思った。それで自分の目が信じられなかった。でもそれは確かに親友の車だったし、横には妻が乗っていた。営業で走っている彼のすぐ横を、昼間にホテルに入っていったのをこの目で見たのだ。それで、彼は探偵業者に調査を依頼した。まるで昼ドラか三面記事だな、彼はそう思った。そんなことが自分の身に降り注ごうとは思いもしなかった。

「ご友人ですね。」探偵業者は落ち着いた口調で言って、証拠の写真を見せてきた。

「ええ。」彼は怒りが込みあがるのを消し去るように、冷静に返事をした。そこには確かに親友と妻が写っていた。彼らが喫茶店で話し、そしてホテルに入っていく姿も写されていた。バカな、と彼は帰り道で天を仰いだ。こんなことがあっていいのか。オレは唯一の親友と妻の両方に、同時に裏切られたというのか。なぜそんなことが起こるんだ。なぜ、なぜ、なぜ。何度自問しても、回答は得られない。数学の答えのようにテキストの裏を見ることもできないし、占い師に相談に行くほど彼は間抜けでもない。しかし自分で解決できるかと言えば、彼には分からなかった。

「お前たちの姿を見た。」まず彼は妻にそのことを話した。その時点で、彼は離婚を覚悟した。子どもは、子どもはどちらが育てるのか、それが大きなポイントだった。争ってもいいが、浮気をしたのは彼女なのだから、権利はこちらにあるはずだ。しかし一人身で、オレは子どもを育てることができるのだろうか。不安や怒り、絶望と心配。多数のマイナスエネルギーが彼をとらえる。

「許してもらえないよね。」妻はそう言って、写真をテーブルに置いた。友人に関しては、もっとドライだった。

「すまん。昔から好きだったんだ。」相手はそう言った。まさかそんなことがあるだろうか。高校生のあの頃から、親友は彼の彼女(つまり今の妻)に恋をしていたのだ。三十を超えて、その想いに再び火がついた。親友はそう言った。

「どういうことだ。」彼には相手の論理が理解できなかったし、一発殴りたかった。裏切られたのは彼の方なのに、我慢していたのは親友の方だというのか。

「今まで、どれくらいオレが。」そう言って、親友は頭を振った。そう、彼が妻と付き合ったり、デートを重ねたり、しいては結婚して家庭を築くまで、親友はそれを疎ましく思っていたのだ。

「祝福してくれてる思ってた。」彼はつぶやいた。

「自分でもそのつもりだった。」親友の言葉の意味が彼には一瞬分からなかった。

「どういうことだ。」彼は何度も繰り返す。

 しかしそこに横たわるのは、今や生き返ることもない死人のような時間。沈黙は神様の言葉となって、二人の間を切り裂いた。もっと言うなら、彼の妻も含めて、三人はずたずたに切り裂かれた。誰が血を流したのだろう。その後で、つまり彼が離婚してから、妻と親友がどうなったか?二人が結婚でもすれば、ある意味でハッピーエンドが訪れるわけだが、そうもならない。元妻は別の男性と再婚したという。子どもは彼と彼の母親が面倒を見ている。そして同級生の看板屋は、いつまでも女漁りを続けながら、結婚という一線を超えることは生涯なかった。彼は唯一の親友と、家庭を同時に失ったショックから、さらに仕事を一生懸命頑張った。結果として出世したが、同時に寿命を縮めてしまい、四十そこそこで命を落とした。