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「お前、結婚しないのか。」ことあるごとに彼は聞いた。

「言ってるだろ。結婚願望はない。」同級生はあっけなく否定する。

「そうか、珍しい奴だな。」早くから結婚していた彼にとって、その考えは異次元のようなものだった。

「女なんて足手まといだ。」同級生はそう言って首を振った。

「そりゃそうだけど、家庭を持って一人前って考えもあるだろ。」社会的には彼の言うことに一理あるようだ。

「まぁな。」そう言っても、いっこうに同級生は納得しなかった。

「結婚もいいぞ。」今まで何度もそう言ってきたのだが、相手はうなずかない。

「女性不信だな。」彼はそう言って友人を笑い飛ばした。

「何とでも言え。」そうは言っても、彼がモテないというわけでもない。これでも小さな店を経営しているわけだし、自由になる金はある。雇われている身とは違う独立心もあった。そこに女性が惹かれないわけがない。三十になるまでに、彼は何度も同級生の女を見てきた。実際には会わなくても、携帯の写真などで見せてもらった。若いギャルのような子もいれば、大人しそうな女の子もいる。

「また違う彼女か。」彼は写メを見せてもらいながら言った。

「ああ、出会い系。」同級生はそう言うと笑ってお酒を飲んだ。

「いい加減、身を落ち着かせろよ。」彼はさすがにそう言ったが、友人の女グセは直らなかった。

「ちゃんとした彼女だからな。」浮気をしてるわけでもない、と同級生は悪気もなく言った。

「そりゃま、そうだけど。」彼もそれは認めないわけにはいかない。でも、そんなある日不思議なことが起こった。妻の携帯に友人からの着信があったのだ。それを彼はたまたま見つけた。置いてあった妻の携帯が鳴って、番号が表示されたのだ。

「おい、奴からじゃないか。」彼はその表示を見て、妻に向かって叫んだ。

「え?」料理をしていた妻は後ろを振り返りもしない。

「奴から電話だぞ。」彼はそう言って、わざわざ携帯を妻の元に持っていく。

「いいよ、今は。」妻はそう答えて、料理を続けた。

「何か用事だろ。」彼は自分の携帯をチェックするが、そこには何の表示もない。

「大した用じゃないでしょ。」妻は笑いながら言った。

「かもな。」その日、彼は疑念をしまいこんだ。電話しようかとも思ったが、なんとなく掛けられなかった。奴から妻に電話があるのは変だったが、ありえないことではない。彼らも友人なのだ。もちろん今は自分の妻であるのだけど、彼らが結婚する前からの知り合い。

「この間、電話したか?」彼は次に会ったとき、直接同級生に聞いた。

「電話?」相手はじっと考えている。

「いやうちのやつに、電話しただろ。」彼は単刀直入にそう言った。

「ああ、あれね。間違えたんだ。謝っといて。」そう看板屋は言った。

「なんだそうなのか。」彼は親友のことを信用していたので、それ以上はつっこまなかった。